「百合珈琲」に流れる"豊かなコーヒー時間"

宝塚の老舗喫茶店と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「百合珈琲」ではないでしょうか。
店の前にはいつもたくさんの自転車が停まっていて、地域での愛され具合が伝わってきます。

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女性的なイメージが強い印象があり、入りたいと思いながらも男性一人で入るのを躊躇していましたが、ランチタイムを過ぎたあたりに初訪問。

「なぜもっと早く来なかったんだろう」
そう思える贅沢な時間を過ごしました。

そして後日、店主の久保田さんにお話をうかがい、「百合珈琲」の魅力の奥の方にも触れることができたのでした。

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通していただいたのは1人掛けのソファが3脚置かれたこちらの部屋。

不揃いのソファとテーブルがヴィンテージの空気を放っており、壁の色とも相まって、洋書の中のような世界観です。

この部屋は元は豆を販売する場所でしたが、コロナ禍にひとり客専用の部屋に改装されたとのこと。

大きなテーブルのある席とはドア1枚で隔てられており、女性グループの歓談がこもったトーンで漏れ聞こえてきます。
この程よい閉鎖感が心地いいんです。

読書をする方や、居心地の良さに眠ってしまう方もいるとのこと。
分かります。

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注文したのはケーキセット。
マロンチョコタルトに合うコーヒーをスタッフの方に教えてもらい、中深煎りのブレンド"実(みのり)"を選びました。

器の雰囲気も良く、口にする前から満たされ始めます。そしてタルトもコーヒーも主張が強くはないのですが、しっかりと印象に残る繊細で奥深い味わい。
「う〜ん おいしい」、と心の中でうなりました。
新鮮なカットフルーツもなくてはならない存在です。

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カウンターの奥の扉には"焙煎室"の文字が。

老舗喫茶店の焙煎室、当然気になります。
焙煎士の方にお願いして、中に入らせていただきました。

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鎮座という言葉が相応しい、存在感のある大型焙煎機がそこにはありました。
使い込まれた道具だけに宿る美しさと貫禄、かっこいいです。

この焙煎機は富士珈機製の10kg直火釜。
昭和48年製で、今はもう作る職人がいないという分厚い内釜が特長のひとつ。
この厚釜でしか出せない味わいを大切にして、先代から使い継がれています。

久保田さんが焙煎を始めた当時、焙煎機には温度計もガス圧計も付いておらず、お父さんのやり方を見て覚えたのだそうです。
さらに実践で学ぶだけではなく東大の研究室にも通い、科学的にも学びを深めます。

そうして自分の焙煎が完成するまでにかかった年月は10年。
今ではマニュアルもできてお店の焙煎士に受け継がれています。

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コーヒーの淹れ方にもこだわりが詰まっています。

使用するのは土鍋とネル。(写真の土鍋は購入することもできます。)
土鍋に挽いた豆を12g入れて熱湯を180cc注ぎ、4分浸してからネルで濾します。
濾したコーヒーを熱々に温めて完成。
とてもシンプルなこの淹れ方はおいしいだけではなく、フード提供の時間を生むことにもつながっているのだそうです。

久保田さんは最初KONO式のドリッパーを使用していましたが、コーヒー豆の商社の研究室でドリップを学び、最終的にこの淹れ方にたどり着きました。
ドリップに関しては80年代には既に科学的な結論が出ており、そこから導かれたのがこの淹れ方なのだそうです。

焙煎 を極めるのには10年かかりましたが、淹れ方を極めるのにも4、5年かかりました。
そして、思い起こせばお父さんもこのやり方で淹れていたのだそうです。

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時間のゆるす限り長居したくなるこの空間。
あの焙煎機も見てしまったし、違う種類のコーヒーが飲みたくなりました。
2杯目は150円とお得です。

そして深煎りの”深月(みつき)”を注文。
口当たりはさらっとして飲みやすいのですが、存在感は確かに深煎り。豊かな味わいです。
「おいしい」とまたつぶやきました。

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レジカウンターにはこのようなレシピや解説が何種類も設置されていて、自由に持ち帰ることができます。
ここには久保田さんが何年も努力して得た知識や方法が、平易な言葉で親しみやすく表現されていました。

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百合珈琲の始まりは63年前の大阪。
店名は、お母さんの名前「百合加代子」の頭文字「ユ」と「カ」を取って、「ユカ」と名づけられました。
焙煎室のあるこの空間には当時の写真と、のれん、ボンボン時計が飾られています。

まだスペシャルティコーヒーという概念が無く、焙煎技術も確立されていなかった時代です。
そんな中で豆にとことんこだわり、当時は珍しかった自家焙煎のコーヒーを提供。お店は繁盛しました。

時を経て1999年に喫茶店を引き継いだ久保田さんが、長い年月をかけて辿り着いた焙煎や淹れ方は、結果お父さんのやり方と同じでした。

厚釜、土鍋、ネル、古くからある道具を知恵と工夫で使いこなしてできたコーヒーは、いわば時代を超えた完成形。
「古いものの良さをこれからも残していきたい」そう久保田さんはいいます。

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百合珈琲は焙煎士をはじめスタッフ全員が女性、お客さんも女性が多く、大人の女性が生み出す優雅で心地よい空間です。

こだわり抜いて極めた先には主張の強い蘊蓄のようなものはなく、美味しいコーヒーがある豊かで穏やかな時間が流れていました。

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店名:百合珈琲
電話:0797-72-0656
所在地:〒665-0051 兵庫県宝塚市高司1丁目8−11
HP:https://www.yuricoffee.com/
instagram:https://www.instagram.com/yuri_coffee_takarazuka/
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜日

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記事/写真 RL

 

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